娘の歯が始めて抜けた。少し前からグラグラしていて、昨日パンを食べた時に抜けたらしく、僕が帰宅したら嬉しそうに戸棚を開けて見せてくれた。嫁が包んでくれたオレンジ色の折り紙を広げると、白い小さな歯があった。毎日、娘と一緒に歯磨きをして見慣れているはずなのに、なんだかやけに小さい歯だなと思った。
娘は5歳になったばかり。こんなに小さいうちに歯が抜けるものだっかなと、記憶をたどってみたけど、初めて歯が抜けた時のことは覚えていない。小学生の頃、歯に糸を巻いて父が引っ張って抜いたことが何度かあったことと、糸を巻くのが面倒になったのか父がペンチを持ちだしてきて、無理やり抜かれたことは鮮明に覚えている。
ただ、抜けた歯を屋根に投げたり地面に埋めたりするのは好きだったので、娘の歯がグラグラしだした時、「下の歯は屋根に投げて、上の歯は地面に埋めるんやで、そしたら次の歯がしっかりはえてくるんやで」と満面の笑みで説明したら、なんだか不思議そうな顔をして「なんで?」と聞き返してきた。
「それを妖精さんが持って行ってくれて、丈夫歯を持ってきてくれるねん」となんとなく答えると、歯を投げる理由ではなく「なんで、下の歯は屋根なん?」と屋根と地面の違いが気になっていたようだった。娘は「なんで、屋根なん?」と真っ直ぐ僕の目をみる。「それは、下やから上に向かって生えるやろ。だから上に投げんねん」という僕の答えに娘は「ふーん」という顔をするだけだった。
そんな風だったから、歯を投げることに興味はないのだなと思い込んでいたけれど、抜けた歯を僕に見せた娘は「屋根に投げる!」と嬉しそうに大きな声で言った。どんな子どもにとっても面白いイベントなのかも知れないが、僕はそのキラキラした目をみてやっぱり僕の子だなと思った。
もとから今日は実家に顔をだすつもりだったから、抜けた歯は実家の屋根に投げることにした。今住んでいる団地では屋根というか屋上まで投げることなどできないので丁度いい。娘は私の母が少し苦手なので出かけるのはいつも嫌がるけど、今日はそんなこともあって、機嫌よく家をでることができた。
雨が振り出したのでタクシーを使った。母に孫の顔を見せるために出かけているのに、なんだか歯を屋根に投げるためにタクシーに乗っている気分だった。娘はお気に入りのピンクの傘を握りしめ、いつになく静かに座っていた。
お菓子や塗り絵を貰うと、二階にある昔僕が使っていた部屋に行きたいと娘が激しく主張するので、そこで塗り絵をしてしばらく遊んだ。母が様子を見にきたら、すこし嫌そうなそぶりをして、その場を離れたかったのか、急に思い出したのか「歯を屋根に投げる!」と大声で宣言した。
「そうそう、昨日歯が抜けてん。おばあちゃんにいーってして見せてあげて」と僕が言うと、嫌がるかなと思ったけど、娘は全力で口をいーっとして歯抜けの様子を見せてあげていた。「よかったねえ」と、母は嬉しそうに娘を褒めていた。
玄関まで降りると、雨は少し小降りになっていた。「投げる?」と娘の顔を見ると、「おとうちゃん投げて」と僕を見上げた顔はいつになく真剣だった。「じゃあ」と僕は折り紙に丁寧に包んであった小さな歯を取り出して、雨の中で傘も差さずに(傘を差したら投げられないので)、「えいっ」と思いっきり歯を屋根に向かって投げる。歯は小さすぎたために上手く手に引っかからず、自分でもどこに飛んでいったのかよく分からなかった。ちゃんと屋根に乗ったかなと、僕はしばらく上を見上げていた。
こういう時に何か言うおまじないがあったようなと気がするが、なにも思いだせないし、気の利いた台詞も何も思いつかなかった。雨に打たれながら、こんなふうにこの屋根を見上げるのなんていつぶりだろうかと僕がぼんやり考えていると、「おちてこない」と娘が心配そうな声をだした。「おちてきたらあかんわ」と母は笑った。娘はまだ不思議そうな顔をしていて、僕はそんな娘を連れて家の中に戻った。
眠る前に絵本を読むという習慣がついた頃は、なんだか嬉しくて言われるままに何冊も何冊も読んでいたら、毎日10冊近く読むはめになってしまっていた。これだと9時前に布団に入っても10時を過ぎてしまうので、読む冊数を徐々に減らして今では1冊か2冊に落ち着いている。
できることなら眠らずにいつまでも遊んでいたい娘を「絵本を読む時間がなくなるでー」といって布団へと誘いこむ。
娘「きょうはなんさつ?」
私「1冊」
娘「えー!!」
私「じゃあ、上手に歯を磨けたら1冊づつで、2冊」

プリキュアやアンパンマンの絵本も好きだが、今日は珍しく『すてきな三にんぐみ』(トミー=アンゲラー)を持ってきた。我が子ながらセンスがいいと親バカらしく思う。私はいつも『カバくん』(岸田衿子)を読む。この絵本は何度読んでもなぜか飽きない。文章が問いかける形式なのがいいのかも知れない。
元気よく声をだして絵本を読む娘。となりで布団に潜り込んだ私はついつい目を瞑ってしまう。9時過ぎなのに、もう眠い。たどたどしく絵本を読む娘の声が聞こえてくる。ひらがなしか読めないので、カタカナがあると「これなんてよむの?」と聞いてくるので、そのたびに教えて、また目を瞑る。眠ってしまいそうになると雰囲気で分かるのか、それとも私がイビキでもかいているのか、娘が「おとうちゃん、ねたらあかん!」と叫ぶ。
娘「よみおわったで、つぎおとうちゃんやで!」
私「…よし、じゃあ読むで」
娘「やっぱりじゅんばんに読もう!」
私「……わかった」
娘「どうぶつえん、に、あさが、きた、いちばん、はやおきはだあれ?…だれ?おとうちゃん、だれなん!ねんといて!」
おとといは娘の誕生日だった。誕生日プレゼントに好きなものを買ってあげると言ってあったので、クリスマスが終わってすぐに、あれがいいこれがいいと言いだした(クリスマでは、サンタさんに貰うものを悩んでいた)。
アクセクルーラという自分で好きなパーツを繋げてアクセサリーをつくるキットを、ずっと欲しがっていた。同じことがアイフォンでできるアプリがあり、それをとても気に入って遊んでいたからだ。だけどパーツ代が高くて、後から買い足すとけっこうな額になるなということで、似たようなアクセサリーをつくるキットでビーズを使うものを勧める。それだとパーツが沢山買えるから一杯つくれるというので本人も納得していた。
そして、当日トイザらスに到着。娘はプリキュアにでてくる猫のキャラのぬいぐるみを見つけて「これがいい!」と叫ぶ。いきなり変わっている。が、好きなものを買ってあげると言っているので、まあいいかと思う。喋る機能とかいろいろ付いたぬいぐるみで5000円ぐらい。
いちおう他のも見て決めたらと言って店内を歩く。自転車にちょっと興味を惹かれていたが素通りした。自転車は1万円以上するものが並んでいたから心臓に悪い。
それからアクセクルーラやビーズのアクセサリーキットもみたけど、やっぱりプュリキュアの猫のぬいぐるみが欲しいという。ぬいぐるみの入った箱を持ってレジに行こうとしたら、隣にあったプリキュアの使う武器みたいなものを発見。「やっぱり、こっちにする!」と宣言。2000円ぐらいで、ちょっと安っぽいつくり。「ほんとに、これでいい?あとからあっちが欲しかったって言わへん?」と聞くも「これでいい!」と言い張る。
それではとレジに行こうとすると、さらに近くにあったプリキュアのなんか私にはよくわからないものを娘が発見。「やっぱり、これがいい!」と高らかに宣言。かなりちゃちい作りで1000円ぐらい。おいおいと思いながらも何度も聞きなおしても譲らない。誕生日プレゼントにしては、祖父母が普段買ってあげる程度のものになっているのだが。
それでも本人の希望が最優先だということでレジの前まで行く。すると、そこにプリキュアのイラストが入った風船が浮かんでいた。「これにする!!」さっきの数倍は聞き直したが、よほど気に入ったのかテンションもかなり高い。550円。安すぎると思いつつ購入。
帰り道、とても気に入ったようで、ずっと握りしめて離さない。家に帰ってもずっと持っていて、眠るときも枕元に浮かべて眺めていた。
風船を子どもはみんな好きだ。ショッピングモールでも、娘が風船を持って歩いていると、ベビーカーに乗った子も声を上げ、小さい子は「ふうせん!」と叫び、もう少し大きな子供たちは、じっと見ていた。やっぱりふわふわと浮いているのがいいのだろうか。空気が抜けたらヘリウムガスを買って入れてあげよう。
冬休みに入った娘。
父「おとうちゃんも、あと三回仕事に行ったら三回休みやで」
娘「じゃあ、あとさんかいいったら、いっしょにくらせるね!」
父「くらしてるやん!」
そういえば娘がもっと小さいころ、仕事に行く僕を団地に窓から見送りながら
娘「またきてね~!」
と叫んだこともあったなと思いだした。

サンタさんにもらったスケーター